【概要】
2024年8月21日、第4回GX実現に向けた排出量取引制度の検討に資する法的課題研究会(以下「第4回法的課題研究会」といいます。)が開催されました。
第4回法的課題研究会では、排出量取引制度における市場取引に係る法的在り方に関する論点について、主に次の内容の議論がなされました。
・取引業者・仲介業者への規律の在り方
・排出枠取引所への規律の在り方
・不公正取引への対応の在り方
(・会計上の課題)
【目次】
1.取引業者・仲介業者への規律の在り方
2.排出枠取引所への規律の在り方
3.不公正取引への対応の在り方
4.その他の議論
1.取引業者・仲介業者への規律の在り方
(1)取引業者・仲介業者の登場の可能性
排出量取引制度が本格的に稼働した場合、実際に排出枠を売買する当事者のみならず、排出枠の取引を自ら業として行う取引業者や、排出枠の取引の委託を受け、あるいは、その委託の媒介・取次・代理を業として行う仲介業者が市場に参入してくることが想定されます。
取引業者や仲介業者の参入は、取引制度全体の活性化には資すると考えられますが、反対に、投機の対象とされる、実需とかけ離れた価格での取引が過剰になされる可能性があるなど、一長一短な部分があると思われます。
そこで、取引業者や仲介業者の参入を想定するにあたって、①市場に参加するための要件を求めることや、②取引業や仲介業をするにあたって遵守すべき事項を課すことが必要か否かについて議論がなされました。
(2)類似の制度に関する業規制との比較検討
既存の業規制を縦覧したときに、制度設計において、当該業種について登録制にするか、許可制にするかによって、その規制強度は大きく異なることになります。
既存の法制度において、類似の取引に係る業規制として比較されたのは、次の表のとおり、電力取引に関する「電気事業法」、現物の商品先物取引について規制した「商品先物取引法」、有価証券などの金融商品について規制した「金融商品取引法」の3点です。
委員からは、一定の規律を設けるべきという方向性については特段の異論は出されなかったものの、現物取引とデリバティブ取引については分けて考えるべきであるとの意見が出されました。
一方で、業規制を考える上では、3で詳述する不公正取引規制とセットで考慮されるべきとの意見が出されました。
議論の中では、商品先物取引法の事象と類似していることを前提になされた意見が示されており、今後、排出量取引制度の業規制を設けるとの議論においては、商品先物取引法と類似の制度設計がされる可能性も想定されます。
2.排出枠取引所への規律の在り方
(1)排出枠取引所の重要性
公正な炭素価格を形成・公表するためには、排出枠取引所が重要な役割を果たすと考えられますが、反対に、取引所が乱立した場合、安定した取引量が確保できずに公正な炭素価格の形成機能が発揮されないという懸念があります。
上記のような観点から、「取引所集中義務」の必要性について議論がなされました。
(2)取引所集中義務
取引所集中義務とは、ある一定の商品の取引を、一定の基準のもとに開設された取引所において行わせることとする一方、取引所以外での取引を禁止あるいは制限することを指します。
委員からは、取引所集中義務について、特にデリバティブ取引については取引所集中義務が必要という方向性で議論がなされました。
今後、制度設計として、取引所集中義務が設けられた場合には、排出枠取引所開設については一定の規制が設けられ、排出枠の取引については排出枠取引所における取引が中心となることが想定されていると考えられます。
実際に、東京証券取引所は2023年10月より、カーボン・クレジット市場を開設しており、既にJ-クレジットの取引が行われている状況です。
また、2024年11月よりGXリーグ参画企業の超過削減枠の取引も開始される予定となっています(制度概要 | 日本取引所グループ (jpx.co.jp))。
もっとも、東京証券取引所以外の事業者もこういった取引所を設置することは法的に禁止されていないため、取引所集中義務の導入の有無については注目されます。
3.不公正取引への対応の在り方
(1)不公正取引規制の必要性
類似する制度である商品先物取引法や、金融商品取引法においては、商品市場の公正な価格形成を阻害することを防止する観点で、相場操縦やインサイダー取引等の不公正とされる取引を規制しています。
同様に、排出枠取引においても、公正な炭素価格の形成等を阻害するとして、不公正とされる取引が考えられるところです。
今回の議論では、既存の制度において一般的に不公正とされている取引の類型について、排出枠取引においても不公正な取引として規制する必要があるか、より具体的には、公正な炭素価格の形成の阻害というリスクが存在するかという観点から議論がなされました。
(2) インサイダー取引規制について
特に、インサイダー取引規制に関しては、どのような情報がインサイダー情報にあたりうるのか、という観点から議論がなされました。
工場の閉鎖に関する情報や、技術革新がインサイダー情報にあたりうるのか、それらの情報はそもそも需給情報ではないか、という意見が出されました。
そのような意見に対しては、制度設計に関する情報についても、内部情報として取り込むことができるものがあり、EUに倣った規制が必要であるとの意見や、そもそも情報の質が異なり、既存のインサイダーに関する議論とは異質のものとしてとらえる必要がある、という意見が出されました。
4.その他の議論
上記以外の議論として、公認会計士の委員から、排出枠に関する会計上の課題についての報告がなされました。
そのなかで、排出枠等の会計上の処理に関する「実務対応報告第15号」の枠組みについて、会計上の処理として妥当であるか、全ての場合にカバーしきれているかどうかを十分に議論すべきとして、今後の対応が待たれることが報告されました。
カーボンニュートラル検討プロジェクトチーム 弁護士 荒籾 航輔