【概要】

202465日、第2回GX実現に向けた排出量取引制度の検討に資する法的課題研究会(以下「第2回法的課題研究会」といいます。)が開催されました。
2回法的課題研究会では、排出量取引制度における行政法上の論点として、主に下記4項目に関する議論がなされました。以下、当日の議論について、概説いたします。


【目次】

1.排出量取引制度の憲法上の課題について
2.営業の自由(憲法221項)について
3.平等原則(憲法141項)について
4.
財産権(憲法29条)について




1.排出枠償却義務及び排出枠の行政法上の位置付け

(1)問題の所在
排出量取引制度では、対象事業者に「一定期間における排出量と同量の排出枠を償却する義務」が課せられることが想定されています。
この排出枠償却義務及び排出枠の行政法上の位置付けについて、①許可を前提とする考え方と②行為義務を前提とする考え方が示され、行政法上どのような性質を有するかが議論されました。

(2)議論の内容
①許可を前提とする考え方による場合、対象事業者が温室効果ガスを排出することは一般的に禁止され、温室効果ガスの排出には許可が必要となります。一方で、②行為義務を前提とする考え方による場合、対象事業者が温室効果ガスを排出した場合、対象事業者の排出量に応じた排出枠の償却が義務付けられます。
排出枠は取引の対象となることも想定されており、公法・私法2つの側面を有していると考えられるため、どちらの性質を有するかを一義的に決めて制度設計するのではなく、私法との関係も踏まえて、複合的に検討すべきである等の意見が出されました。


2.対象事業者に対する権利救済や権利保護手続の確保の在り方

(1)問題の所在
排出量取引制度では、行政庁による下記の行為が想定されています。
 ①排出枠の割当総量や排出枠の無償割当方針を定める割当基準の策定
 ②対象事業者に対する無償割当量の決定・割当て
 ③実効性確保措置(課徴金などのペナルティ)の決定等
行政庁によるこれらの行為について、対象事業者にどのような権利救済制度や権利保護制度が認められるべきかの議論がなされました。
行政庁による上記①~③の行為について、どの段階で具体的な権利救済が可能となるか、その他の特別な不服申立制度が設けられるのかについては、対象事業者に対する権利保護の観点からは重要であると考えられます。

(2)議論の内容
行政庁の行為については、「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」(行政事件訴訟法3条2項)といえなければ、その効力を裁判で争うことができません。
また、行政庁の行為については、行政過程の中に組み込まれた事後救済手続である行政不服申立てによっても争うことができますが、その対象となる行為も「行政庁の処分」(行政不服審査法2条)とされています。
そのため、対象事業者の権利救済を検討するにおいては、「行政庁の処分」に当たるかが重要な論点となります。
②、③については、行政庁の処分に当たることは明らかであるとの意見が大勢でした。①については、行政庁の処分に当たるとして制度設計するのではなく、割当基準を明確化することや専門家や利害関係者からの意見聴取手続を経る方法等が意見として出されました。
その他、諸外国の制度を参考に、割当計画や割当方法等の策定・変更等をする際の意見聴取手続、パブリックコメント等、対象事業者の意見を聴取する手続についても検討されることとなります。


3.行政処分の在り方、執行上の法的留意点

(1)問題の所在
行政庁の行為については、そのすべてを法律に定めることはできず、実際の運用にあたっては行政庁に一定の裁量(以下「行政裁量」といいます。)が与えられることとなります。
しかし、平等原則等の観点から、行政裁量を無制限に認めることはできないため、その広狭や裁量統制の方法について議論がなされました。

(2)議論の内容
委員からは、割当基準や割当方法を子細に定めることにより、行政庁の裁量を狭める方向での意見等が出されました。また、無償排出枠の割当てや、償却義務量の算定においては、第三者機関による認証や検証が想定されています。
認証及び検証の具体的なイメージとして、下記のような流れが説明されました。
画像1-1

  • (経済産業省 環境経済室「行政法上の論点について」より抜粋)

  • 第三者認証や第三者検証は、限りある行政資源を有効活用するために重要な仕組みであり、どのような者が第三者機関として本制度に関与するか等、第三者機関の在り方についても重要な課題となることが予想されます。
  •  


4.制度の実効性確保の在り方

(1)問題の所在
排出量取引制度の実効性を担保するため、排出量の算定・報告を行わない事業者や、排出枠を償却しない事業者に対して、何らかの不利益を課すことができないか議論がなされました。

(2)議論の内容
実効性を確保するための制度として、課徴金や罰金など、経済的な不利益を課すことを前提とした議論がなされました。各委員からは、課徴金を用いるのが適切との意見が多く出されました。
2024年6月5日付 経済産業省環境経済室「資料4 行政法上の論点について」14頁では、諸外国の制度として、下記のものが紹介されています。

制度 措置の内容
EU-ETS 1tCO2eあたり100EUR(+欧州消費者物価指数に応じた増額の”penalty”を負担させる。
K-ETS 1tCO2eあたり100,000KRWを上限として市場価格の3倍の価格以内の“penalty surcharge”を負担させる。
カリフォルニアキャップ&トレードプログラム 不足する排出枠の4倍の排出枠等の償却義務を負担させる。
セーフガードメカニズム 1tCO2eあたり275AUD”civil penalty”を負担させる。
【参考】
東京都排出量取引制度

①東京都知事が、1CO2eあたり1.3倍の排出枠の償却命令を行う。

②命令に違反した場合、50万円以下の罰金を科す。さらに、東京都知事が不足量を償却し、それにかかった費用を対象事業者に請求する。

(経済産業省 環境経済室「行政法上の論点について」より抜粋)



                      
カーボンニュートラル検討プロジェクトチーム 弁護士 宮下 博樹





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