去る2020年11月27日に、同一地域の地方銀行同士の合併に独占禁止法を適用しない特例法が施行されました。なお、この法律の正式名称は「地域における一般乗合旅客自動車運送事業及び銀行業に係る基盤的なサービスの提供の維持を図るための私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律の特例に関する法律」です。(以下、単に「特例法」と表記します。)このニュースにおいては、この特例法の与える効果について、簡単にコメントします。
地方銀行は、通常、特定の県に基盤を持っています。基盤以外の県にも進出していますが、比較的少数の支店を持つにとどまっているというケースが大半です。どうしてこのような姿になっているかは、歴史的な経緯が大きく影響しています。戦前、戦時経済体制を作るということで、各分野の経済の集中化が行われた際に、銀行についても、若干の例外がありますが、各県において概ね一県一行になるように銀行合同が進み集約されていきました。戦後は、その一県一行から出発し、若干の地方銀行が新設され、さらに、やはり概ね各県を基盤とする相互銀行が設立されその後普通銀行に転換していきました。こうして、地方銀行は、一県一行主義による銀行、一県一行主義の若干の例外、戦後地銀、相互銀行が転換した第二地方銀行と、由来の異なるものにより、各県を基盤とする地方銀行が複数存在するという、今日の概ねの姿になりました。
近年、地方銀行については、たびたび、再編の動きが生じています。現在でも、その動きが続いています。最近の動きの背景には、やはり、銀行の本来の業務である資金の貸付業務から利ザヤを得て収益を得るということが、次第に難しくなっていることがあるのでしょう。そうなれば、経営の効率化がさらに重要課題になってきます。
地方銀行の再編といった場合、基盤となる県を異にする地方銀行の合併なり経営統合が行われるケースが多くあります。このケースをこのニュースでは、便宜「水平的統合」と呼びます。また、別のタイプで、同一の県を基盤とする地方銀行同士の合併なり経営統合が行われる場合があります。これをこのニュースでは、便宜上「垂直的統合」と呼びます。
これまでの地方銀行の再編では、どちらかというと、「水平的統合」が多かったと思われます。「水平的統合」でも、本部機能の統合や、情報システムの統合により、効率化・費用節減効果があります。経営基盤の強化が出来ます。
他方、地方銀行は、基盤とする都道府県には、密に支店網を築いているのが普通です。地方銀行は、地域密着が重要なので、県内の各地に、お客様との接点の拠点となる支店網を維持することが大事だと考えていることによります。
「垂直的統合」においては、統合する各銀行の重複する支店を整理することで、県内各地の支店網を維持したまま、支店削減による経費の節減が可能になります。この部分は、「水平的統合」による経費削減効果に上乗せした効果となります。
今度の特例法は、「垂直的統合」を実現しやすくする法律ですが、地方銀行に合併や経営統合を強制するものではありません。この特例法を活用するかは、各地方銀行の判断になります。これまで、同じ県内で競ってきた地方銀行同士でしょうから、再編効果の高い選択肢がしやすくなったといって実行するのかどうか、むしろ、効果が高いがゆえに強い決断が必要となることから、各地方銀行の今後の判断が注目されます。
以上