5月の訪日外国人客が前年同月比99.9%減の1700人だったという報道がありました。「新型コロナウイルス」の影響によるものですが、このようなインバウンドの消失によって観光関連や飲食店は大きな打撃を受けています。また、外出自粛・ソーシャルディスタンスの概念・リモートワークの普及などにより経済活動の在り方全体が大きな影響を受けており、業態によっては今後資金繰りに窮する企業が増えていくと思われます。そこで、以下では企業が取引先の倒産に際して行うべき対応や、取引先の倒産に備えておくべきことについてご紹介したいと思います。
なお、ひとことで倒産といっても、実はいくつかの種類があります。裁判上の倒産手続だけをみても、清算型倒産手続と再生型手続に分けられ、それぞれ代表的な手続きとして、破産手続と民事再生手続があります。
以下では主に破産手続をメインとして解説いたしますが、その多くは他の倒産手続にも当てはまります。手続きごとの詳細な違いについては弁護士までご相談ください。
(1) 債権の届出
まず、破産した取引先に知れている債権者に対しては、裁判所より債権届出書が送られてきます。債権届出書を受け取った場合は、当該届出書に債権額やその原因等を記載したうえで、裁判所へ届出をしましょう。
通常、債権の届出をすると、破産管財人等から否認等されない限り、債権調査を経て届け出をした債権額が破産債権として確定します。そして、確定した破産債権は、配当が見込める限り、その破産債権の種類や金額の割合に応じて配当がされることにます。
ただし、担保権や優先権等を有しない通常の取引先の債権の場合、その配当率は平均して0~5%ともいわれており、特別な事情がない限り、大きな配当は期待できないでしょう。
(2) 損金算入
取引先が破産した場合の多くは、その債権について損金処理が可能です。
まず、債務者が破産手続の申立てをした時点で、債権金額の50%相当額を限度として貸倒引当金として損金計上することが認められています。
また、破産した債務者が法人である場合、破産手続の廃止決定または終結決定によって破産法人は消滅します。そのため、配当を受けられなかった残額部分について貸倒損失として損金計上が可能です。
(3) 取引企業倒産対応資金(セーフティネット貸付)
取引企業など関連企業の倒産により経営に困難を来しており、倒産した企業と次のいずれかの関係がある場合、取引企業倒産対応資金という制度により、長期運転資金として1億5千万円を限度とした融資を受けることができます。
① 50万円以上の売掛金債権などを有する
② 取引依存度が20%以上である
③ 貸付金や差入保証金などの債権を有する
④ その債務を保証している
⑤ その設置する商業施設に入居し、倒産企業の業況悪化の影響を受けるおそれがある
⑥ 受注予定の商品や役務などが倒産により取り消された
本業自体は順調であるにもかかわらず、取引企業など関連企業の破綻によってキャッシュフローがうまく回らず連鎖倒産の事態に陥ることは、経済社会にとっても大きな損失です。一時資金が必要な場合には、このような制度の利用も積極的に検討しましょう。
(日本政策金融公庫へのリンク)
https://www.jfc.go.jp/n/finance/search/06_tousanntaisaku_m_t.html
(1) 取引先の倒産への備えの重要性
上で述べたように、ひとたび取引先が倒産すれば、その配当率は平均して0~5%ともいわれていますから、債権者は大きな損害を被ります。そのため、以下では、倒産による影響をできる限り回避するための措置について少しご紹介いたします。
(2) 倒産による影響の回避措置
取引先に倒産の兆候(例えば、取引先の支払条件の変更の要請など)をつかんだ場合には、倒産による影響をできる限り回避するための措置として、以下のような措置をとることが考えられます。
ア 取引先への売掛金の減少につとめる
取引先が得意先である場合は、契約上可能な範囲で掛け売りを抑えるなどして、売掛金残高の減少に努めることが考えられます。
イ 相殺権を確保する
相殺権者は倒産手続においても優先的に取引債権の回収を図ることができます。そのため、取引先から商品を購入するなど、取引先に対しても債務を負担することができれば、相殺による回収対応が可能となります。
この場合、「甲乙双方が保有する債権については、その債権の弁済期を問わず、いつでも対等額で相殺することができる」など、相殺予約の合意条項が契約書に盛り込まれていれば、たとえ弁済期が到来する前であっても相殺による回収を図ることができ、効果的です。
(3) 取引開始時の備え
ア 与信調査を行う
これから契約を締結して取引を開始するということであれば、あらかじめ相手方の信用を調査しましょう。
与信調査にはさまざまな方法があります。すでに取引をしたことがある先であれば、まずは社内におけるヒアリングを行うのがよいでしょう。
また、インターネットを利用した情報収集や、商業登記簿、不動産登記簿の取得など官公庁に登録されているデータ等も確認しましょう。
さらに、とりわけ大きい金額の取引をする場合には、上記のような情報を得た後に直接企業に訪問しましょう。仮に、相手方の提供する情報に矛盾点等が見つかれば、同業他社からの情報を収集することや外部の信用調査会社への依頼をすることも必要となるでしょう。
イ 担保を設定する
与信調査の結果や取引金額の大きさなどを考慮して、相手方の信用を補う必要があれば、保証人を付したり、抵当権などの担保権の設定をすることでリスクの低減を図りましょう。
ウ 契約書のチェックを依頼する
仮に、取引先に対して担保を要求するほどの力関係がない場合であっても、例えば契約書の中に所有権留保の条項を入れるなど、契約条項の調整によっても取引債権の回収可能性は高まります。そのため、取引開始前において信頼できる弁護士に契約書のチェックを依頼することも有効な倒産に対する備えとなるでしょう。
以上