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1. はじめに
全国で緊急事態宣言が解除され約1か月が経ちますが、東京都における新規感染者数は2桁台を維持する日が多く、未だ油断ができない状態が続いています。このようななか、従業員が新型コロナウィルスに感染してしまった場合、企業として直面する問題は多岐に渡る一方、その対応には迅速さが求められるとともに、対応次第では企業価値の低下を招くリスクもはらんでいます。
そこで今回は従業員が新型コロナウィルスに感染した場合の対応をまとめました。2. 新型コロナウィルスの感染疑いが判明した場合の対応
(1) 在宅勤務やテレワークの活用
感染者と接触のあった従業員や、咳や発熱などを発症している従業員に対しては、在宅勤務やテレワークによる就業が可能な場合にはこれらへの切り替えを検討し、社内における集団感染リスクを低下させることが肝要です。
厚生労働省では、テレワーク総合ポータルサイト(https://telework.mhlw.go.jp/)にて、テレワーク導入を検討している企業に向けた情報を掲載しています。なお、在宅勤務時の労務上の留意事項については、こちらをご参照ください。(2) 休業時における休業手当の支払い
新型コロナウィルスの陽性反応が出ていない段階で従業員が自主的に休業をする場合には、通常の病欠と同様に取り扱うこととなります。他方、企業において「発熱や咳など一定の症状がある場合は一律休業とする」など、企業の判断で従業員を休業させる場合には、労働基準法26条「使用者の責めに帰すべき事由による休業」に該当し、休業手当を支払わなければなりません。(3) 行動歴などの情報収集
在宅勤務への切り替えや従業員の休業と並行し、新型コロナウィルス感染の疑いがある症状が発症するまでの行動歴など可能な限りで情報収集を行う必要があります。行動歴の分析により、濃厚接触者の特定や所属部署への具体的な対応の指示など、集団感染を防止するための迅速な対応が可能となります。(4) 感染疑いのある従業員への接し方
上記の対応に際し企業として気を付けなければならないことは、感染疑いのある従業員の体調に配慮し慎重に対応することです。従業員からの協力が得られなくなれば、企業として適切な対応をとることができなくなるだけでなく、当該従業員への接し方によってはハラスメントとなる可能性もあるので要注意です。3. 新型コロナウィルスの陽性反応が出た場合の対応
(1) 感染した従業員に対する対応
① 情報公開への同意
従業員が感染した場合、集団感染を防止するため、他従業員や取引先、場合によっては入居している建物の管理者に対し情報を共有することが想定されます。そのため、感染した従業員に対し、感染したという事実を含め、自身の個人情報を第三者に公開することにつき、理解を得ることが必要です。② 休業手当等
新型コロナウィルスは指定感染症として定められているため、都道府県知事は、新型コロナウィルスに感染した従業員に対し就業制限を課すことが可能です。都道府県知事が行う就業制限により従業員が休業する場合、労働基準法26条に定める「使用者の責めに帰すべき事由による休業」にあたらないと一般的には考えられるため、休業手当を支払う必要はありません。なお、この場合の従業員に対する休業補償としては、各種保険の要件に該当する場合には傷病手当給付、新型コロナウィルスへの感染が業務に起因したものであると認定された場合には労災保険による給付などが考えられます。(2) 社内対応
従業員が感染したという情報を社内全体に共有するとともに、感染者と接触のある従業員や所属部署の他従業員に対しては、在宅勤務への切り替えを検討するなど集団感染防止に努めることが必要です。併せて、社内従業員に対し感染予防の徹底を周知し、感染した従業員の勤務スペース及び共用部分の消毒などの対応が求められます。(3) 社外対応
従業員が感染したという情報は、適切なタイミングで社外に発表する必要があります。最近では、SNS等を通じ従業員が感染したという情報が対外的発表より前に公になることも十分に想定されます。このように対外的発表よりも前に情報が公になってしまうと、場合によっては取引先の信用低下や企業イメージのダウンにもつながりかねません。
なお、情報を対外的に発表する場合には、感染した従業員の個人情報の取り扱いに対し十分配慮することが必要です。4. 最後に
上記対応はあくまで概要に過ぎず、実際には個々の企業・労働者に即した個別具体的な対応が求められます。従業員が感染した場合に迅速な対応をとるためには、感染者を出す前から、企業としてどのような対応を取るべきかを具体的に想定しておくことが重要です。
上記新型コロナウィルスへの対策に限らず、ご不明点やご相談等がございましたら、お気軽にお問い合わせください。以上
2020.06.19
石田 裕夏