ハラスメントという言葉、そして、セクハラ、マタハラなど多数の種類の○○ハラという言葉は、昨今では日常生活でもよく使われるようになりました。カタカナ言葉は、意味が分かりにくい場合もあり、「いじめ」とか「嫌がらせ」という日本語の方が、ニュアンスが伝わりやすく感じられます。いずれにせよ、ハラスメントや○○ハラという言葉がよく使われている状況は、決して望ましいことではありません。
様々なハラスメントのなかで、これまでも、男女雇用機会均等法その他の法律により、職場におけるセクハラ、妊娠・出産、育児休業・介護休業等の取得に関するハラスメントについては、事業主は対策を講ずる義務がありました。
これらのハラスメントに続き、2020年6月1日からは、労働施策総合推進法の改正により、職場におけるパワハラについても事業主は対策を講ずることが義務となりました。
なお、この法律において、パワハラとは、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されること」とされています。
新たに事業主へ義務付けられたパワハラ対策は以下のとおりです。
(1)職場のパワハラについて労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じること(なお、中小企業については、2022年3月31日までは、努力義務とされています)。
この「必要な措置」の内容は、厚生労働省の指針で、概要以下のように示されています。
(2)労働者が相談を行ったこと又は相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、その労働者に対して解雇その他不利益な取り扱いをしてはならないこと。
なお、パワハラに関する労使紛争については、都道府県労働局長による紛争解決援助、紛争調整委員会による調停の対象とされるとともに、厚生労働大臣は、措置義務に違反した事業主を、一定の手順を踏んで公表できることとなりました。
また、事業主の努力義務として次のことも定められました。
パワハラ対策が法律上の義務になったので、各企業は、この法律の求めに沿った対応が必要になりました。
法律上求められるからというばかりでなく、企業内のハラスメントは職場環境の問題として社員にとっては重大な関心事です。社会においてハラスメントへの評価が若い世代を中心にどんどん厳しくなり、「ブラック企業」と評価されることは人材確保の面からも問題となっています。したがって、各企業においては、パワハラが起こらない企業風土をつくる必要があります。
企業は、利益とか売上とか企業目的を追求し、また、上位者下位者が明確な組織なので、管理者が業績向上のプレッシャーのなかでパワハラ事案を起こしやすいという土壌があります。
また、職務上適正な範囲の業務指示や指導とパワハラの境界は難しいとされています。厚生労働省も①身体的な攻撃②精神的な攻撃③人間関係の切り離し④過大な要求⑤過小な要求⑥個の侵害という6つの類型を示し、例示も示していますが、具体的事案において、パワハラかそうでないかの区別は難しいものです。しかし、パワハラに対する社会の見方はどんどん厳しくなっており、昔なら問題とされなかった行動も今ではアウトと評価される場合も多いといわれます。
他のハラスメントもそうですが、パワハラとなるかどうかは、人格攻撃の要素が大きなポイントと思われます。上司が部下を人格攻撃すれば、その人格攻撃の要素を部下の側では敏感に感じ、傷つくのです。
企業としての対応の基本は、企業内における人格尊重の考え方の徹底と起きた事案への厳正な対処です。職場におけるパワハラは、職場の上位者が職務上の地位を人格的な優位とカン違いすることから起きることが多いと思われます。上司は部下に対して王様ではありません。職場の地位は、職務の遂行のために与えられたもので、それ以上のものではありません。企業内において、管理者は部下の人格を尊重し、部下に対し「いじめ」や「嫌がらせ」的な感情を持たないようにするという考え方を徹底することが重要です。
また、パワハラ事案を起こす管理者は、むしろ、その上の上司からは「やり手」と評価されている場合も多かったりします。しかし、起きた事案に対しては人事異動を含め厳正に対処し、管理者の考え方を変え、パワハラ的対応を認めないように企業風土を変えていくことが必要と思われます。
以上